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E U 拡 大 に 備 え た 農 業 政 策 改 革

1. 制度改革の必要性

 EU拡大に伴い、新規加盟国の農業政策は、ECの政策に統合される。経済力に劣る新規加盟国は、農業を主たる産業にしており、財政支援を必要としている農家が多数いる ことから、ECの農業予算は、さらに膨大化することが予想された。 



 新規加盟国の農家(約400万人)は、原加盟国の農家(約700万人)より競争力に劣るだけではなく、農村や生産体制の構造改革が必要とされている。そのため、EUからの財政支援に大きな期待を抱いているが、その他に、EU加盟に基づく市場の拡大(約4億5000万人の消費者)、また、比較的、安価で農産物を供給しうるといったメリットも存在する。

  リストマーク 拡大EUの農業市場動向

  リストマーク バナナ市場

  リストマーク 新規加盟国の農産物の流通



 しかし、この点に限らず、WTO交渉の圧力、狂牛病や農産物の遺伝子組み換えなどによって喚起された食の安全性確保、また、農村の発展や環境保護といった多数の問題を背景に、EC農業政策改革の必要性が強く認識されている。
 


2. 制度改革の概要
(1) 2002年10月の決定
 2002年10月、ブリュッセルにおいて、欧州理事会は、EU拡大に基づき、農業予算が膨大化することを防ぐため、2013年までの農業予算は、2006年の水準(年間約450億ユーロ)に抑えることを決定した(なお、年率1%のインフレーションは、別途考慮するものとする)。



リストマーク 独仏の妥協

 この決定は、ドイツの Schroeder 首相とフランスの Chirac 大統領が、懸案の農業予算について事前に妥協したことを踏まえて成立した。EU最大の資金拠出国ドイツは、農業予算の拡大に懸念を示していたが、その規模を2006年の水準に抑えることを条件に、現加盟国だけではなく、農業の比重が大きい新規加盟国の農家に対しても、従来のように、直接的な財政支援を実施することを認めた。

  リストマーク ドイツ外務省公式ホームページ [ドイツ語]




(2) 2003年6月の改革
 さらに、2003年6月、欧州理事会は、従来の農業支援制度を改正することに合意した。これによれば、農家への補助金(所得補助)は、原則として、生産物(および生産量)とは無関係に支給される。もっとも、生産中止という事態を回避するため、加盟国が生産量に応じて補助金を給付することを認めているが、その条件は厳密に定められる。

 新制度は、農産物の価格支持を通じた農業保護を改め、農家に直接、補助金を支給するといった従来の改革路線に沿っているが(間接支援から直接支援への移行)、価格維持制度は完全に廃止されるわけではない。



 例えば、牛乳やバターの価格支持は継続されるが、Agenda 2000 で提示された価格支持の緩和が前倒しで実施される。穀物に関しても同様のことが当てはまるが、ライ麦については、価格支持が廃止される。



 なお、新制度は、農家への補助金給付を削減し、環境・品質・家畜保護プログラムや、農村開発(地域振興)に予算を割いている。補助金の給付は、環境・食品安全・動物保護規定の遵守が条件となる。 個々の農家への給付は、2005年より実施されるが、農業構造の特殊性に鑑み、経過措置が必要とされる加盟国では、2007年より実施される(2007年以降はすべての加盟国で実施される)。
 

 また、拡大EUの農業予算(2013年まで)を当初の計画の範囲内に収めるため、予算統制を厳格に行うことで合意が成立した。



 2004年2月、欧州委員会は、2007〜2013年のEU予算案を提示したが、2002年10月の欧州理事会決定を踏まえ、上記期間中の農業予算(価格支持と直接的な所得補助)は、2006年の水準に留めている。また、2007年にブルガリアとルーマニアがEUに新規加盟することを想定した調整がなされているが、27か国体制になるとはいえ、インフレ率を控除した実質額は、2006年の43億7000万ユーロから2013年は42億3000万ユーロと3%減少している。なお、これには農村開発を対象にした地域開発費は含まれていない。委員会案では、地域開発措置の予算(インフレ率を控除した実質額)は、2006年の10億5000万ユーロから2013年は13億2000万ユーロと、約25%上昇しているが、この大幅増はEU拡大によるものである。農産物の価格支持、農家の直接支援と地域開発予算を合計した額は、54億3000万ユーロ(2006年)から55億5000万ユーロ(2013年)と、2%増加する





リストマーク 新加盟国への適用

 ECの農業政策は(共通農業政策)は、EC法の総体系acquis communautaire)の重要な一部として、EU加盟時より、新規加盟国でも適用される。つまり、新規加盟国は、共通通商政策を実施しうるよう、国内法を整備する必要があり、それが加盟交渉の最重要事項の一つとされてきたが、EU農業予算の急激な膨大化を回避したり、農産物安全基準の遵守が容易ではないことなどに対応し、段階的に適用される措置もある。

(1) 農家の所得補助(直接的支援)
 新加盟国の農家(約400万人)も直接的支援の対象になるが、その額は、2004年の25%から徐々に引き上げられ、2013年に100%に達する予定である。これには、EU農業予算の膨大化を阻止し、また、農家の自助努力を促進するねらいがある。なお、現加盟国と同様に、新規加盟国は、生産物(や生産量)とは無関係に、所得補助を行うことができる。支給額の算定基準となる平均所得は、現加盟国では、2000〜2002年の所得をもとに算定されるが、新規加盟国の場合は、個々の農家別にではなく、特定地域のデータをもとに(各国別に)算出することが提案されいてる。


(2) 地域開発
 2004〜2006年にかけて、新規加盟10か国には、5億ユーロを上回る資金が地域開発費として支給されるが、これは現加盟15か国の約2倍に相当する。


(3) 農産物の安全基準
    この点については こちら


リストマーク 〔参考〕 従来の農業政策改革

 EU予算の大半を占める農業政策は、従来よりその見直しが検討されているが、現在進行中の制度改革は、1992年より開始され、Agenda 2000 によって深化・拡大された制度改正の流れを汲む。それは、@伝統的な価格維持制度から農家の直接支援制度に移行し、また、A農村開発の強化を主たる内容としているが、直接支援制度への移行は徹底されていない。
 


(参考)  欧州委員会の公式ホームページ [英語]