物 権 法(適用通則法第13条)


1. 準拠法

 適用通則法第13条(および従来の法例)は、動産不動産を区別せず、両者とも目的物の所在地法によると定める(同則主義)。物権を所在地法によらしめるのは、@物権は物を支配する権利であるから、その物が現存する地の法に従うのが最も自然であること、A土地の所有権をめぐる争いなど、所在地の公益に関わる場合が少なくないから、所在地法を適用するのが適切であること、また、B担保物権の設定など、所在地以外の法律を適用するのは技術的(手続的)に困難ないし不可能な場合があるためである。

動産の準拠法を所在地法とすることは古くから認められてきたが、動産の準拠法に関しては争いがあり、かつては所有者の住所地法によるとされていた[1]。しかし、@動産の価値の増大、A動産の種類の増加、B取引の安全と円滑(例えば、動産の準拠法を所有者の住所地法とすると、所有者の住所の変更と共に準拠法も変更するし、動産の所有者が複数いる場合には、準拠法の決定が困難になる)、また、C動産と不動産の法律上の区別が困難な場合があることに基づき、動産の準拠法も所在地法とされるようになった。



2. 準拠法の適用 物権その他登記すべき権利

 適用通則法第13条が指定する準拠法は、物権およびその他登記すべき権利に適用される。

@ 例えば、物権の対象、動産・不動産の区別、主物・従物の区別、物権の種類、内容、効力など、物権に関するあらゆる問題は所在地法に基づき判断される。



リストマーク 担保物権

a) 約定担保物権

 債権の担保を目的として、債務者の財産に任意に担保権(抵当権や質権など)を設定することがあるが、その成立、内容、効力は、目的物(つまり、債務者の財産)の所在地法による。なお、成立について、かつての通説は、被担保債権の準拠法と所在地法を累積的に適用するとしていたが、現在は、担保権の設定は物権的行為であるため、所在地法によるとされている。

 有体物だけではなく、権利または債権に対して担保権を設定することが認められるであろか。この問題は、目的たる権利または債権自体の準拠法による。例えば、債権に質権を設定する場合は(債権質)、確かに、物権であるが、目に見えない債権の所在地の決定は困難であるため、債権の準拠法によるとする(最判昭和53420日)。また、株式に質権を設定する場合は、株式の準拠法(法人の準拠法)による。


b)法定担保物権

 特定の債権の効力を担保するため、法律に基づき設定される担保権(留置権や先取特権など)の成立は、物権の準拠法(目的物の所在地法)だけではなく、被担保債権の準拠法が認める場合に成立する(通説)。これは、法定担保物権は、債権を担保するために法律によって認められる債権であるため、被担保債権の準拠法が認めない場合にまで、これを成立させる必要はないとの考えに基づいている(法定担保物権である以上、法律が認めない場合にまで、成立させる必要はない)。

 他方、法定担保物権の効力は、目的物(担保権が設定される財物)の所在地法によるとされている。




 なお、不動産の売買を目的とする契約の成立に関する準拠法は、適用通則法7(当事者の行為能力については 4)に基づき決定される。なぜなら、これは契約の成立に関する問題であるからである。これに対し、この契約に基づき、不動産の所有権はいつ移転するかという問題の準拠法は、物権(の移転時期)に関する問題であるので、第13条に基づき決定される。

 物権的請求権例えば、目的物の返還請求権や立退請求権の準拠法も第13条によるが、これに関連する損害賠償請求権や代金・費用返還請求権の準拠法も、第13条によって指定されるかどうかは争われている。これらは、独立した債権であると捉える 裁判例 もあるが[2]、一律的に判断するのではなく、当該権利の性質に応じて決定すべきとする見解が有力である。



 例えば、隣地の使用、立入りまたは通行などに対し支払う償金については(民法第209条、第212条参照)、物権の存在を前提とし、それに密接に関連しているため、適用通則法第13条による。

 これに対し、占有者(例えば、宝石の販売を委託され、宝石を預かっていた者)が目的物を失ったため、同人に損害賠償を請求する場合は、占有権(つまり物権)の回復を目的とするのではなく、損害の補填という法定債権上の権利を行使していると解されるため、法定債権の準拠法(第14条以下) による[2]



 

A 登記すべき権利とは、登記されると物権と同一、または類似の効力(すなわち、対抗力)を生ずる権利を指す[3]

類似の効力が生じる権利としては、例えば、不動産の買戻権〔民法第581条〕や不動産賃借権〔第605条〕が挙げられる。なお、これらは本来、債権である。そのため、その成立や効力については 債権の準拠法(第7条参照) によるが、物権的効力(すなわち、対抗力)については、物権の準拠法による。



3. 物権変動の法律要件完成時期と所在地の変更

 財物の譲渡に伴い、物権(例えば、所有権)が移転するが、第13条第1項によれば、この問題の準拠法は、目的物の所在地法となる。しかし、動産の場合、譲渡によって、その所在地は通常、移転するため、準拠法の決定に困る場合がある。

 そのため、第13条第2項は、物権の得喪および変動については、その原因たる事実が完成したる時点における目的物の所在地法によると定める。例えば、売買契約に基づき所有権が移転する場合には売買契約、また、取得時効に基づき物権が移転する場合には法定の占有期間が満了した時点に目的物が所在していた地の法律が準拠法となる。



 目的物が移動する場合について、次の例を検討されたい。

 A国の法律によれば、動産の所有権は意思表示に伴い移転するが、B国の法律によれば、引き渡しを必要とする場合において、

@ 動産がまだA国に存在する間に、売買契約が成立したとすれば、準拠法はA国法となる。A国法に従い、意思表示によって所有権が移転していれば、その後、動産がB国に輸送されたとしても、準拠法はA国法のままであり、所有権は有効に移転していることになる。

 

A 他方、動産がB国に存在する間に売買契約が成立し(そのため、準拠法はB国法となる)、それからA国に輸送される場合には、引き渡しが有効になされていなければ、所有権は移転しない。また、A国への輸送後、同国(所在地国)の法律によれば、当事者の意思表示により物権が移転する場合であっても、引き渡しがなされるまでは物権は移転しない(なぜなら、準拠法はB国法であるためである)。




   リストマーク 物権変動に関するケース

 


4. その他の法律関係の準拠法との関係

4.1. 債権の準拠法との関係

 物権の準拠法(所在地法)は物権行為についてのみ適用され、物権の得喪を生じさせる債権行為(例えば、売買)には適用されない。債権行為の準拠法は、第7条 に従い決定される(前述参照)。

 例えば、売買契約によって、物権の変動が生じる場合、売買契約の成立の準拠法は第7条により、物権変動の準拠法は第13条による。




 日本民法上、動産の所有権は意思表示により移転するが(意思主義)、ドイツ法上は、引渡しを必要とする(形式主義)。


 AとBがドイツにある動産を売買するときであれ、売買契約は日本法によると合意することができる(第7条第1項)。日本法によれば、意思表示によって所有権は移転するが、物権の移転は、所在地法によるので、ドイツ法上の引渡しが必要になる。

 逆に、AとBがドイツに滞在している際に、日本にある動産を売買する場合は、売買契約により所有権が移転する。もっとも、形式主義の国で行われた売買には、所有権移転の効果意思が含まれないとされるのが一般的である。したがって、この場合には、売買契約によって、直ちに所有権が移転するわけではない。

 




4.2. 総括準拠法との関係

   こちらを参照





[1]      この点について、溜池『国際私法講義』[第2版](有斐閣、1999年)313頁を参照されたい。

[2]      例えば、大阪地判昭和35412 は、損害賠償請求権について、法例第11条を適用した。

[3]      そもそも、登記されると物権と同一の効力を持つ権利があるかどうかは明らかではない。溜池・前掲書322頁参照。

 

 


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