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国際私法 E C 法 上 の 基 本 的 自 由 と 国 際 私 法


目 次


 はじめに
  
  I  総論
    1. 基本的自由の保障に関する抵触法上の問題点
    2. EC法の要請に合致した準拠法の指定・適用

 II 各論
    1. 会社法
    2. 物権法
    3. 債権法
    4. 家族法

 おわりに



おわりに

 加盟国法の違いは、域内市場を完成させ、基本的自由を保障する上で、大きな障害となる。そのため、EUは国内法の調整に尽力しているが、その発展は国内抵触法の意義を弱める。つまり、国内実質法が均質化され、どの加盟国の法によっても問題は同じように解決されるようになるとすれば、ある国の法を準拠法に指定する実益は小さいくなる。まだそのような段階には達していないため、準拠法の決定が重要であるが、EU基本諸条約は、このような抵触法的アプローチを前提にしておらず、ある加盟国法に基づき成立した渉外的法律関係は他の加盟国でも承認されるという理論に基づいていると考えることも可能である。このような立場によらず、準拠法の決定が求められると捉える場合であれ、基本的自由は、指定された国内法に基づき保障されるのではなく、EU法によって保障されていることを明確にしておく必要がある。国内法とEC法が抵触する場合、後者が優先することは、ECJ の判例法を通し、確立されてきた。基本的自由の保障はEU法上の大原則にあたるため、この法益を制約する国内法は適用されない。このことは加盟国の国際私法にも及ぶと解される。つまり、準拠法は基本的自由の保障の要請に合致するように決定されなければならない。

 前掲のECJ判例に照らすならば、EU法の要請を満たすため、準拠法は、原則として、設立準拠法ないし原産国法とされなければならないと解される。特に、法人の移動の自由とは、EU加盟27ヶ国の法令から自らに有利な法を選択し、開業することを保障するものである。つまり、設立が容易な加盟国(発起人の本国以外とする)法に準拠し法人を設けた後、本国に本拠を移転したり、支社を設置することが保障される点に留意しなければならない。実際に、このような目的でペーパーカンパニーを設立することも、法人の移動の自由の濫用にあたらないとEC裁判所はリベラルな判断を下しているが[1]、移転国における規制や債権者保護の要請についても十分に考慮されなければならない。他方、自然人の属人法に関し、本国法主義は国籍に基づく差別につながり、また、常居所地法主義は本国法上の法律関係を否認することもありうる。ここでも、準拠法は基本的自由が保障されるように決定されなければならないという要請が働くため、本国法か常居所地法のいずれかによると画一的に定めるのではなく、準拠法の選択を認めることが重要となろう。

なお、国内抵触法がEU法に合致しない場合には、前者が完全に改廃されなければならないわけではなく(EU法が適用されないケースでは、国内法は変わりなく適用される)、特例を設けたり、公序条項に基づき、指定された準拠法の適用を排斥すれば足りる。また、準拠法レベルでの対応が可能であればよいことが本稿で考察したEC裁判所の判例より導かれる。なお、準拠法に指定された自国法が基本的自由の保障に反することもありうるため、外国法だけではなく、自国法の適用をも排除しうるように公序条項を改めることも検討に値する。つまり、基本的自由の保障というEC法の大原則をベースにすると、外国法だけではなく、自国法も外部の法となる。なお、前述したように、ドイツでは、法人の従属法の決定に関し、例外を認めるのではなく、準拠法決定にかかる原則が変更されている。これによって、本拠所在地国による規制や債権者の保護といった要請が軽視されることになるが(EU法もこの点に配慮していないわけではない)、この問題の解決には加盟国法の調整が求められる。もっとも、これによって国際私法の重要性は弱まる。前述した、渉外的法律関係の承認に関する理論も同様の効果をもたらすが、これは国際私法だけではなく、国内法の調整に代替する意義を併せ持っている[2]

 


 

[1]     Case 79/85 Segers [1986] ECR 2375, para. 16; Case C-212/97 Centros [1999] ECR I-1459, para. 18; Case C-167/01 Inspire Art [2003] ECR I-10155, para. 96.

 [2]      Stern, supra note, p. 223.