外国実体法と内国(法廷地)手続法の不調和

 

1. 別居判決の言い渡し

 日本に在住するフィリピン人夫婦の離婚の準拠法は、適用通則法第27条(第25条の準用)によれば、両当事者の本国法、つまり、フィリピン法となる。

 フィリピン法は離婚を認めておらず、その代わりに別居という制度を設けている。我が国の裁判所が別居判決を言い渡そうとする場合には、そのような判決を言い渡す手続が存在しないため、問題が生じる。


実体法

手続法

離婚

制度あり

あり

別居

制度なし

なし



 この問題について、一般に、手続法は、実体法上の権利の実現に奉仕すべきであると考えられるため、可能な範囲で法廷地の手続法を修正することが望ましいとされている。つまり、別居を成立させるため、国内手続を修正して適用すべきである。



 

2. 養子縁組に関する家庭裁判所の許可

      盛岡家裁平成286日審判(渉外判例百選〔第3版〕150頁)

 

(1) 事案の概要

申立人A(日本人)は、B(アメリカ国籍、イリノイ州法が本国法とされる 不統一国の法令が準拠法に指定される場合について)との結婚に際し、Bの子供(連れ子[アメリカ国籍])と養子縁組を行うことにした。養子縁組成立の準拠法に関する法例第20条第1項後段(適用通則法第31条第1項後段)によると、本件養子縁組の成立には、養子の本国法たるイリノイ州法が定める裁判所の決定が必要になる。しかし、我が国にはそのような決定制度も決定手続も存在しないため、Aは、決定に代わる措置として、養子縁組を許可する審判を裁判所に求めた。


 
準拠法であるイリノイ州法によると、裁判所の決定が必要になるが、日本には、裁判所の許可に関する手続しかないため問題が生じる。なぜ、日本には、裁判所の決定手続が存在しないか考えなさい。


 

(2) 審判要旨

 「法例第20条第1項本文[適用通則法第31条第1項前段]によれば養子縁組は( @ )の本国法によると定められているので、まず( A )の本国法たる日本法に鑑みて本件をみるに、右認定事実に徴すると、申立人(A)と事件本人 (Bの連れ子)との養子縁組には、要件的になんら欠けるところが存せず、かえって家庭裁判所による許可をも要しないところである。他方、法例第20条第1項但書[適用通則法第31条第1項後段]によると( B )の本国法が養子縁組の成立につき第三者の同意、公の機関の処分等を要件とするときはその要件の充足も必要である旨定めているところ、養子の本国法たるイリノイ州法では、本件のような養子縁組の成立には、実親が裁判所において同意をし、裁判所が子の幸福等を考慮して決定することを必要としているので、この点を案ずるに、まず事件本人の実母(B)が当裁判所の家庭裁判所調査官による調査に際し、本件養子縁組に積極的な同意を表明していること及び事件本人の実父が実母や事件本人とまったく連絡がなく所在が不明で同意を得るのが著しく困難であることは明らかである。また、イリノイ州法において裁判所の( C )を要するとしている趣旨と日本法において未成年者の養子縁組に家庭裁判所の( D )を要している趣旨とは実質的に同一と解されるから、イリノイ州法による裁判所の( C )に代わるものとして日本の家庭裁判所による右( D )審判があれば、イリノイ州法による右要件が満たされるものと解すべきである。」






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