先 決 問 題


A.先決問題とは

 以下の事例を検討してみよう。

 中華民国[台湾]人のA、同じく中華民国人のBと離婚し、日本人のCと再婚したが(東京で結婚式を挙げたものとする)、後に死亡した。Cが配偶者として、Aの遺産を相続しようとした際、BAC間の婚姻は無効であると主張し、配偶者としてのCの相続権を争った。

このケースでは、そもそもCは、配偶者として相続しうるかどうかを検討する前に、AC間の婚姻の成立について検討しなければならない[1]。これを先決問題といい、これに後続する相続問題を本問題という[2]



@: 

AC間の婚姻は有効か(先決問題

A: 

@の問題が肯定される場合、Cは配偶者として相続しうるか(本問題


 



 
本問題の準拠法は、法例に照らして決定されるが、先決問題の準拠法はどのようにして決定されるか。これを、先決問題の問題というが、我が国では一般に先決問題と呼ばれている[3]

 



B. 先決問題の解決

 先決問題の準拠法はどのようにして決定されるべきであろうか。この問題について、法例は規定していないため、解釈で補う必要があるが、通説・判例は、法廷地の国際私法に従って、先決問題の準拠法は決定されるべきであるとしている(法廷地法説)。



 この見解によると、先決問題の準拠法は、法廷地の国際私法に基づき決定される。従って、例えば、訴えが日本の裁判所に提起されたとすると、適用通則法第24条第2項に基づき、準拠法は、婚姻挙行地法(すなわち、日本法)となる。



婚姻の有効性
(方式)

24
2

婚姻
挙行地法

日本法




これは、先決問題も本問題に含まれる問題と考え、法廷地国の国際私法の機能(すなわち、渉外事件に適用される法令〔準拠法〕の指定)を重視する立場である。要するに、この理論によらないならば、法廷地国の国際私法規定は空文化するとされる。

また、後日、先決問題のみが訴訟の対象となる場合にも、準拠法は異ならないため参照、裁判所の判断も異ならないという利点がある。

もっとも、先決問題は(本問題の)準拠法の適用に際して生じる問題であるとして批判されている。


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C. 裁判例

 A女は、中華民国出身のB男と、東京で中華民国の法律に基づき儀式婚を挙げた。
Bの死亡後、Bの養子がAB間の婚姻の無効を申し立て、Aの相続権を否定した事案において、東京地裁(昭和48426日)は、法廷地法説にたって、先決問題(AB間の婚姻の有効性)の準拠法は挙行地である日本の法律であり( 法例第13条第2項〔適用通則法第24条第2項〕参照)、日本法による届け出がないため、婚姻を無効と判断した。



@

AB間の婚姻の有効性(先決問題)

 法廷地国の国際私法(すなわち、法例第13条第2項 〔適用通則法第24条第2項〕)に基づき、挙行地法が準拠法になる。ABは日本で挙式しているから、準拠法は日本法となる。


A

Aの相続権(本問題)

 法例第26条 (適用通則法第36条)に基づき、被相続人の本国法、つまり、Bの本国法である中華民国法が準拠法になる。








[1]      日本民法第739条によれば、婚姻は届け出ることが必要であるのに対し、中華民国法第928条によれば、式を挙げ、2名以上の承認があれば婚姻は成立する。

[2]      なお、その他に、先問題や部分問題について指摘されることがある。この点につき、櫻田「国際私法」第2134頁参照。

[3]      例えば、道垣内『ポイント国際私法総論』(有斐閣、1999年)115頁以下参照。

[4]      道垣内・前掲書130頁以下参照。




 

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