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分 裂 国 家 の 国 民 の 本 国 法


 未承認国に関する問題に類似するものとして、分裂国家に関する問題がある。後者の問題に関し、以下の事例を検討されたい。

 

仙台家裁昭和57316日審判(渉外判例百選〔第2版〕20頁以下)

 

(1)事例の概要

 日本に在住するX女とY男(両者の外国人登録上の国籍は朝鮮である)は結婚し、子供ABをもうけたが、その後、離婚した。その際、XABの親権者とする合意が成立したが、後日、XABと共に日本に帰化することを申請した際、仙台法務局は、「父の本国法たる韓国民法 (a) によりABの親権者は父たるYに限られる」[1] と判断した。そこで、Xは親権者をXに変更するよう申し立てた。

 

 なお、事件当時の法例第20条は次のように定めていた

「親子関係ノ法律関係ハ父ノ本国法ニ依ル若シ父アラサルトキハ母ノ本国法ニ依ル。」


     リストマーク 適用通則法第32条と改正理由については こちら


 

(2) 審判要旨

 「渉外的親子関係に関する準拠法は、法例第20条により父の本国法に依るので父たるYの本国法を検討するに、朝鮮半島においては北緯38度線を境とする北朝鮮、南朝鮮の分割がすでに194592日以降行なわれ、北朝鮮すなわち朝鮮民主主義人民共和国と南朝鮮すなわち大韓民国はそれぞれ独自の法秩序を持ち、いずれも朝鮮半島全域につきこれを正当に代表する政府たることを主張しているが、現実にはいわゆる38度線停戦ラインを境としてその北、南の各区域を統治していることは顕著な事実であり、この状態は二つの国が併存しているものとみなさざるを得ない。そして、両国はそれぞれの国籍法を有するため同一人につき二重国籍の問題が生ずるがその解決方法として法例第27条[適用通則法第38条]第1項本文の規定によることは専ら本国における政治的変動によってもたらされた朝鮮人の二重国籍の状態の解決には妥当しないのでこれに依ることなく[2]一般原則による解決すなわち抵触する国籍によって連結されている複数の国の法秩序のうちから住所、居所その他当事者と社会の関係の密接度を示す諸要素を併せ考慮し、属人法として適用すべき法秩序を選択するのが相当と考える。しかして本件においては、Yは外国人登録上本国での住所又は居所として韓国の支配圏にある場所を登録するが、同所に居住した事実あるいは帰住する意思は窺知[きち]されず、かえって右登録において国籍を朝鮮とし、積極的に在日朝鮮人民総連合会に所属し活動していることからすれば、Yはこれを紐帯として同政府と結ばれ、したがって同政府の支配圏内に行われる法規がYの本国法であると解すべきである。」

 

解説

 国際法上、ある者がA国の国籍を有するかどうかは、A国の法律に従い決定される。本件審判も、この考えに従っている。そして、北朝鮮の国籍法と韓国の国籍法によると、Yはそれぞれの国の国籍を有し、二重国籍者になる。このように判示した上で、仙台家裁は、法例第28条第1項(適用通則法第38条第1項)は二重国籍者の本国法の決定について定めているが、この規定は、本件のような国家の分断に基づく国籍の抵触を対象にはしていないため、本件には同規定を適用すべきではないという立場を踏襲している 。

 また、韓国法と北朝鮮法のどちらをYの本国法とすべきかという問題については、Yの居住地(韓国に住んでいたという事実)ではなく、Yの意思(北朝鮮への帰属意識)を重視している(長野家裁昭和57年3月12日審判、家月第35巻第1号105頁)。

 

問題

 下線部(a)はどのような考えに基づいているか。



[1]      渉外判例百選[第2版]20頁。

  なお、このように、男女平等の理念に反する韓国民法の適用は、我が国の公序に反しないかという点について、こちら を参照されたい。

[2]      なお、審判当時の法例第27条第1項本文によると、重国籍のいずれもが外国国籍であるときは、最後に取得した国籍国の法律が本国法となった。



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