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連  結  点



1. 連結点とは

 適用通則法は法律関係(単位法律関係)の何らかの要素を媒介にして準拠法を指定する。例えば、上掲のケースでは、結果発生地を基準とし、準拠法が定まる。このような準拠法を決定する要素を連結点とよぶ。その例としては、すでに指摘した結果発生地の他に、以下のものが挙げられる。 


  (1) 国籍

 人の身分・能力に関する問題は本国法による、つまり、準拠法は国籍を基準にして決定されるのが一般的である4条、第5条第1項、第6条第1項、第24条〜37条など)。これは、本国法を準拠法にすると、当事者の本国の風俗、習慣ないし文化等を反映した解決が可能になるとの考えに基づいている。また、国籍は恒常的であるため、準拠法決定の安定性に資するが(一般に、ある人の国籍が変更されることはないので、準拠法も変更されることはない)、以下のような場合に問題が生じる。


ある者が複数の国籍を有する場合(重国籍者の本国法の決定[第38条第1項参照])

ある者が国籍を有さない場合(無国籍者の準拠法の決定[第38条第2項参照])

ある者が難民の場合(難民の準拠法の決定[難民の地位に関する条約第12条第1項参照])[3]


複数の者の本国法が共通であることが求められる場合(参照



  (2) 常居所

  上掲のケースなどのように、国籍を連結点としたのでは準拠法が定まらない場合は、当事者の常居所が考慮される(第8条第2項、第19条、第25条参照)

 常居所とは、「住所」の概念が各国で統一されていないことより生じる問題を克服するために創出された国際私法上の概念である。国際的にその定義はまだ確立していないが、一般に、人が相当期間居住し、現実に生活している場所を指すが、当事者の意思を必要としない点で「住所」とは異なるとされる。また、一時的な生活の場所ではない点で「居所」とは異なる。

 

 法務省は、戸籍事務処理の指針として、以下の内容の通達(平成元年102日)を発している[4]。なお、この通達は後に部分的に改正されているが、いずれにせよ、法例(現行、適用通則法)の適用に際し、裁判所を拘束する効力はない。


 @ 日本における常居所の認定

 日本人の場合には、日本国内で住民登録をしていれば、日本に常居所があると認定される。国外転出のため、住民票が削除された場合でも、出国1年内であれば、日本に常居所があると判断される。

 外国人の場合には、出入国管理及び難民認定法による在留資格に応じて、永住目的であれば1年以上、その他の目的であれば5年以上、国内に在留している場合に認定される。


  A 外国における常居所の場合

 日本人の場合には、ある特定の外国に5年以上、永住目的などの特別の場合には1年以上居住する場合、その外国に常居所があると認定される。

 外国人が、自らの本国に居住し、住民登録を行っている場合は、その国に常居所があると認定される。第三国における常居所の認定は、日本人の外国における常居所の認定の場合に準じる。

 

 ◎ 常居所決定の指針(法務省通達)

日本人

外国人

日本

(常居所地は日本)

a) 住所の場合に同じ(住民登録)
 これは純粋な国内事件である。


b) 国外に転出する場合であれ、1年内であれば、日本に常居所があるとする。

c) 出入国管理及び難民認定法による在留資格に応じ、永住目的であれば1年以上、それ以外の目的であれば、5年以上、日本に滞在する場合は、日本に常居所があるとする。

外国

d) 永住目的の場合であれば1年以上、それ以外の目的であれば、5年以上、ある外国に住んでいれば、その国に常居所があると認定される。
 基本的に、c) と同じである。

本国 ※1

 第3国 ※2

 a) に準じる

 d) に準じる


※1

例えば、ドイツ人がドイツに居住する場合である。純粋な国内事件であるので、a) に準 じる。

※2

例えば、ドイツ人がカナダに居住する場合である。日本人が外国に住む場合に相当するので、d) に準 じる。




 常居所が連結点になる場合において、常居所がどこにあるか特定できないときは、居所 によるが(第39条本文)、25(第26条第1項および第27条に従い準用される場合を含む)が適用される場合には、当事者に最も密接な関係のある地(最密接関係地)が連結点となる(第39条但書)。

 なお、法例では、家族法の分野において、常居所が連結点とされていたが、適用通則法は、財産法の分野でも用いている(第8条第2項、第19条参照)。この点に鑑み、従来の規定(法例第31条第2項)は改められている(適用通則法第40条第2項)。


  (3) 最密接関係地

 国際私法の最重要原則の一つでも謳われているように、渉外事件は、それに最も密接に関係する地の法を適用し、解決すべきであるが、最密接関係地とは、そのような準拠法を指定するための連結点である。どの地が最密接関係地にあたるかは個別・具体的に検討しなければならないとされ、例えば、当事者の従来の常居所や親族の常居所、生活様式、言語や職業の場所などが総合的に考慮されるが[5]、水戸家裁は、将来の生活様式等を重視した[6]。これは、従来の常居所やその他の事項は最密接関係地を決定する重要な要素になりえないためである。

     リストマーク 最密接関係地(法)の決定に関する事例 @A


 なお、適用通則法は最密接関連地の決定を容易にするため、推定規定を設けている(第8条第2項、第3項、第12条第2項)。




最密接関係地(国)の決定について、将来の生活様式等を考慮した裁判例

 水戸家審平成334(渉外判例百選3〕18頁、24頁および128頁、国際私法判例百選(新法対応補正版)10頁以下参照)


1. 事案の概要

 イギリス人男性Yは、1963年に来日し、日英両国を往復しつつも、日本で生活をしていた。

 1977年、ヨットで祖国に戻る際、Yは、スリランカでフランス人女性Xと知りあい、共に暮らすようになった。そして、1979年、YXを連れ日本に戻り、まもなく、長男A(英国籍と仏国籍を共に有する)が誕生した。その後、3人は、3年余り日本に居住し、1983年、ヨットで世界一周の旅に出た。そして、19904月、XYはグアムで結婚し、同年5月、再び日本に戻った。しかし、Xは放浪的な生活をいとうようになり、離婚と長男Aの親権者指定を水戸家庭裁判所に申し立てた。


 

Aの親権者の決定に関する準拠法はどのようにして決定されるか。性質決定 の問題と、A二重国籍者 であることに注意しなさい。

参照

法例第21条 (適用通則法第32条)による準拠法の決定



2. 審判の概要

 Aの常居所を決定するにあたり、水戸家庭裁判所は、上掲の事実関係の下では、英・仏両国内に常居所があるとはいえないとし、XY間で「Aの養育看護は、今後、父であるYがこれをなすことに合意があり、かつ、A本人においてもこれを了解としてYと現在生活を共にしており、今後YAはいずれ英語圏のケニアに居住し、Aに対しイギリス人としての教育を受けさせたいとの意向である」という理由に基づき、Aの最密接関係国はイギリスであると判断した。


図




  (4) 所在地第8条第3項、第13、第18条、第19条)

  (5) 行為地10条第2

  (6) 婚姻挙行地(第24条第2項)

  (7) 原因事実発生地14

  (8) 結果発生地第17条

  (9) 当事者の意思(第7条第1項)


   なお、法例には「住所」を連結点にする規定もあったが(詳しくは こちら)、適用通則法は、そのような規定を設けていない(そのため、法例第29条に該当する規定も削除されている)。他方、遺言の方式の準拠法に関する法律第2条第3号(第7条第2項参照)では住所」の連結点が維持されている。

 一般的に、一つの単位法律関係は、一つの連結点のみを媒介として、準拠法が決定されるが、複数の連結点を考慮し、複数の準拠法が指定されることもある[1]




2. 連結政策(連結点の決め方)

 ある法律関係の連結点を何にするかは立法政策上の問題であるが、例えば、上例の交通事故(不法行為)のケースであれば、@加害者または被害者の常居所、A加害者または被害者の国籍 、もしくは、B法廷地を連結点として準拠法を決めることもできよう。


単位法律関係 連結点 準拠法
不法行為に基づく債権の発生と効力 矢印  加害者の常居所 矢印  加害者の常居所地法
矢印  被害者の常居所 矢印  被害者の常居所地法
矢印  加害者の国籍 矢印  加害者の本国法
矢印  被害者の国籍 矢印  被害者の本国法
矢印  法廷地 矢印  法廷地法


 もっとも、前述したように、適用通則法第17条本文 は、結果発生地、つまり、権利侵害が発生した場所を連結点として、結果発生地法を準拠法に指定しているが、その理由としては、以下の点が挙げられる。

@

交通事故などの不法行為は、結果発生地の公益に関わる。
 

  国際私法に従い指定されるのは私法である。従って、結果発生地法とは結果発生地の私法であるが、不法行為の成立(交通事故が不法行為にあたるか)については公法(刑事法や道路交通規則など)も考慮する必要がある。そのため、結果発生地の公法も同時に指定される。


A

損害は、損害発生地の法に従い救済される必要がある。

B

結果発生地以外の法によるとすると、加害者や被害者の予測しえない結果が生じる可能性がある。例えば、通常、被害者は加害者の常居所地や国籍を知らないため、それらを連結点として準拠法が決定されるとすると、被害者は準拠法を予測しえず、また、想定しえなかった法律効果が生じるおそれがある。


  問題 問題


 その他に、第13条 は、法律関係(法律行為)と土地の結びつきを重視し、土地を連結点にしている(詳しくは こちら)。



リストマーク 土地が連結点にされているケース(例) リストマーク


法律問題

単位法律関係

連結点

準拠法

交通事故で負った傷の治療費の請求


矢印

不法行為に基づく損害賠償請求(17条



矢印

不法行為(加害行為)の結果が発生した地(交通事故地)


矢印

結果発生地法(交通事故地法)


土地の所有権はいつ移転するか

矢印


物権の取得時期

(物権の得喪)
第13条第2項

矢印


原因事実(例えば、売買)完成時における目的物(土地)
所在地

矢印


原因事実完成時における目的物の
所在地法




3. 属人法の連結点


 ところで、人の身分や能力に関する法律問題は、国際私法上、伝統的に、属人法に従って解決されるべきとされてきた。属人法とは、ある者の滞在場所に関わりなく、その者に適用される法令の総称であるが(例えば、ある者がA国に滞在する場合はA国法、B国に滞在する場合はB国法というように、滞在場所に 応じて変更されるのではなく、常に同人に適用される法令)、何を基準に属人法を決定するかという点については諸外国で統一されておらず、以下のような基準が採用されている。



 (1) 国籍に基づき準拠法を決定する立場(本国法主義)[2] 

 この説によると、当事者の本国の風俗、習慣ないし文化等を反映した法律問題の解決が可能になるため、人の身分や能力に関する準拠法を決める基準(連結点)として国籍は最も適切であると考えられる。また、国籍は恒常的であるため、準拠法決定の安定性に資するとされる(一般に、ある人の国籍が変更されることはないので、準拠法も変更されることはない)。

 もっとも、国籍は、国家と個人の公法上の結び付き紐帯)であり、個人の私法上の法律行為には密接に関連しない。そのため、国籍を基準にした準拠法の決定は不適切として批判されている。また、 本国法主義によると、以下の問題が生じる。


ある者が複数の国籍を有する場合(重国籍者の準拠法の決定[第38条第1項参照])

ある者が国籍を有さない場合(無国籍者の準拠法の決定[第38条第2項参照])

ある者が難民の場合(難民の準拠法の決定[難民の地位に関する条約第12条第1項参照])[3]



     (参考) EU法上の問題点



(2) 住所に基づき準拠法を決定する 立場(住所地法主義)

 住所は、当事者の生活(私法行為)に密接した連結点であり、国籍を連結点とした場合に生じる問題(前述参照)を解決しうるが、住所の概念は各国で必ずしも統一されていない(民法第21条参照)。そのため、常居所という概念が用いられるようになったが、その定義も明確になされているわけではない。

 現行法である適用通則法とは異なり、法例は住所を連結点にしており(参照)、その定義について、以下の見解が主張されていた。


 法廷地法説

国内の実質法(例えば、日本民法第21条)と同じように解釈するとする立場

 領土法説

住所の存否が問題となる国の実質法に従って決定するとする立場
この理論によれば、複数の国に住所が認められることもある(
A国法によれば、A国内に住所があり、B国法によれば、B国に住所が認定されることがある)。

 国際私法自体説

国際私法独自の解釈を行うべきとする考え



 国際私法の適用が問題となる場合には、国際私法独自説が妥当であるが、法例は、領土法説によるとされている(複数の住所の存在を認める法例第29条第2項は、領土法説を前提にしている)。

 




ぽいんとポイント

 人の身分や能力に関する問題は、属人法によるが、それは、通常、以下のようにして決定される。

 @ 国籍 ⇒ 本国法
       それがない(または定まらない)ときは

 A 常居所地 ⇒ 常居所地法
     それがない(または定まらない)ときは

 B 居所地 ⇒ 居所地法
       または、最密接関係地 ⇒ 最密接関係地法


問題 住所の代わりに、常居所地が連結点として用いられるのはなぜか。

      参照
 








問題

以下のケースにおいて、婚姻の効力の準拠法は何か答えなさい。

@

夫婦ともにドイツ人である場合

A

夫はドイツ人であるが、妻は日本人の場合で、両者とも日本に住んでいる場合

B

 Aのケースで、夫はドイツに、また、妻は日本に住んでいる場合



     ぽいんと 
参照

 



[1]     この点につき、例えば、山田・早田『演習国際私法』(新版)有斐閣20頁以下参照

[2]     適用通則法(および従来の法例)は、原則的に、本国法主義を採用している。

[3]     住所地法を属人法としている。

[4]     法務省通達の詳細について、溜池『国際私法講義』(第2版)117118頁を参照されたい。

[5]     法務省の基本通達(平成元年102日法務省民23900号、渉外判例百選(第3版)19頁)参照。

[6]     渉外判例百選(3)18頁および24頁以下参照。






 住所を連結点とする規定

法例第12
なお、第12条は債権譲渡の準拠法の決定に関する規定である。人の身分や能力に関し、住所を連結点にしている規定は法例の中にはない

遺言の方式の準拠法に関する法律第2条第3号(第7条第2項参照

難民条約第12条第1


 法例第29条第2項は、重住所の場合(住所が複数ある場合)には、その住所の中で、当事者に最も密接な関係を有する地の法律を住所地法とすると定める。他方、無住所の場合には居所地法が適用される(第1項)。





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