1.4.   失 踪 宣 告 (適 用 通 則 法 第 6 条)



(1) 失踪宣告とは

 人が行方不明になった場合、さしあたり同人の財産を管理し(民法第25条以下参照)、さらに、一定期間継続し同人の行方が分からないときには、同人を死亡したものとみなし、その者に関する法律関係を確定させる制度を失踪宣告という(民法第30条参照)。宣告は個人の権利・利益に大きく関わることから、我が国では裁判所が行う[1]

 どのような場合に失踪宣告をなしうるか(例えば、どの程度の期間、行方不明であることが必要か)、また、宣告が下された場合には、どのような効力が生じるか(例えば、被宣告者の死亡擬制だけではなく、その他の効力も生じるか)という点について各国の法制は統一されていないため、準拠法の決定が重要となる。

 失踪宣告に関しては、@その準拠法の決定の問題の他に、Aどの国が失踪宣告をなしう るかという管轄権の問題が生じる。@は国際私法の問題であり、Aは純粋には国際民事訴訟法の問題(すなわち、裁判所の管轄権の問題)であるが、 適用通則法第6条は両者について定めている。


 (2) 失踪宣告の国際管轄

 外国人の生存が一定の期間、不明な場合、どの国が同人の失踪について判断しうるとすべきであろうか。不在者の法律関係を確定することが失踪宣告の制度趣旨であるとすれば、例えば、同人の最後の居住地、財産所在地や法律関係の本拠地がある国に(も)、失踪宣告をなす権限を認める必要がある。このような考えに従い、適用通則法第6条は、以下の場合に我が国の管轄権を認めている。


@

不在者が生存していたと認められる最後の時点において、日本に住所を有していたとき(第6条第1項)

 このようなケースでは、我が国に原則的管轄権が与えられ
[2]、失踪宣告の効力は、不在者の法律関係全般におよぶ。

 なお、第6条第1項は「不在者が日本国籍を有していたとき」にも我が国の管轄権を肯定しているが、これは、例えば、同人の最後の住所地が外国であったり、同人が外国に財産を残しているような場合でも、我が国の裁判所は失踪宣告をなしうることを明確にするものである。

A

@のケースに該当しないときであれ、以下の場合(第6条第2項)

a.

不在者の財産が日本にあるとき

 財産には物権が含まれ、これが日本に存在するかどうかの判断は困難ではない。問題は債権であるが、日本で訴求することのできる権利であれば、日本に所在するものとして扱われる


 

b.

不在者に関する法律関係が日本法によるべきとき、または、不在者に関する法律関係がその性質、当事者の住所または国籍等の事情に照らし、日本に関係があるとき

 「不在者に関する法律関係が日本法によるべきとき」とは、
例えば、婚姻や養子縁組などの身分的法律関係の準拠法が日本法となる場合を指す。

(例)

  日本人Aとドイツ人B間の離婚について、Aの常居所が日本にあるとすれば、日本法が準拠法となる(適用通則法第27条但書参照)。そのため、Bがある一定期間、行方不明の場合、日本の裁判所はBについて失踪宣告を下すことができる。

 他方、AとBが共にドイツ人であるときは、両者が日本に常居所を持ち、我が国で利害関係が生じるようなを場合であれ、離婚の準拠法はドイツ法となる。それゆえに我が国の管轄権が否認されるといった不都合を解消するため、適用通則法第6条第2項は、 「その他の事情に照らして日本に関係がある」場合についても、我が国の管轄権を認めている
[3]


 その他、不在者と締結した契約が日本法によると合意されている場合であってもよい(適用通則法第7条参照)。


 なお、a の「不在者の財産が日本にあるとき」と、b の「不在者に関する法律関係が日本法によるべきとき」が一致する場合がある。例えば、日本国内にある不在者の財産の物権が問題になる場合である(適用通則法第13条より、このケースにおける物権の準拠法は日本法となる)。

 

 このようなケースでは、例外的に我が国の管轄権が認められ、我が国の裁判所の権限は限定される。つまり、我が国の裁判所は、a の場合は日本にある財産についてのみ、b の場合は日本に関係する法律関係についてのみ失踪宣告をなしうる。これは、原則的な管轄権を有する外国裁判所の失踪宣告との衝突を避けるためである。

 

(3) 失踪宣告の準拠法

日本の裁判所が失踪宣告を下す場合は、日本法が準拠法となる(適用通則法第6条)。原則的管轄であるか(上述@)、例外的管轄(A)であるかによって違いは生じない。



(4) 失踪宣告の効力

 失踪宣告によって不在者の死亡が擬制される(失踪宣告の直接的効果)。この効果については、準拠法を選択する必要はない(どの国の法律によっても、死亡が擬制されると考えられるため)。

 不在者の法律関係の確定を徹底させるならば、同人が婚姻していたときは、それを解消し、また、財産を残しているならば、相続を開始させることも必要になるが(失踪宣告の間接的効果)、これらの問題は、それぞれの法律関係の準拠法による。つまり、婚姻の解消については婚姻の効力の準拠法、相続については相続の準拠法 に従う[4]

 



[1]      失踪宣告をなす機関は裁判所である必要はないが(例えば、法務省や地方公共団体の機関であってもよい)、我が国の民法第30条第1項は、裁判所(家庭裁判所)の権限と定める。これと同様に、適用通則法第6条(法例第6条)は、裁判所が失踪宣告をなす権限について定めている。

[2]      なお、法例第6条は、外国人が行方不明になり、@同人の財産が日本に存在する場合と、A同人に関する法律関係に日本法が適用される場合においてのみ、日本の裁判所は失踪宣告をすることができると定める。従来の多数説は、この規定は、我が国の裁判所の管轄を例外的に認めており、原則的管轄は不在者の本国が有すると捉えていた。渉外判例百選20事件参照。

[3]      これに対し、法例第6条は、行方不明になった外国人の法律関係に日本法が準拠法として適用される場合に限定していたため、上述した問題が生じていた。この点について澤木=道垣内「国際私法入門」[5版再訂版]145頁参照。

[4]      法例第6条の解釈について、澤木道垣内「国際私法入門」4版再訂版〕146頁参照。



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