準 拠 法 の 決 定 に 関 す る 訴 訟 当 事 者 の 責 任



事例 大阪地判昭和35412日、渉外判例百選26頁以下


1. 事案の概要
 
 原告X(スペイン人)は、上海で宝石商を営む者であるが、Y(日本人)に宝石の販売を委託した。その後、約束の期限が経過し ても、Yは宝石を返還せず、また、その代金も支払わないので、XYに対して次の訴えを提起した。

@ 

1次請求として、所有権に基づく宝石の返還

A 

2次請求として、その返還が不可能な場合には、その価格と遅延損害金の支払い(填補賠償の支払い)(第3次請求は省略する

 

 上掲の請求の準拠法について、Xは、宝石の返還や、填補賠償の支払いは、YXに持参すべきものであり、Xは日本に住んでいるから、日本法が準拠法になると主張した。



2. 判旨

@ 第1次請求について

 口頭弁論終結時、Yが本件宝石を占有していることを示すに足る証拠はない。そのため、所有権に基づく返還をYに求めるのは失当である。



A 第2次請求について

 第2次請求は、物権的返還請求に代わる損害賠償請求である。この種の請求は、物権的請求権と密接な関連性があるとはいえ、明らかに独立した債権であり、また、(XYの)契約から直接生ずる債権ではないため、むしろ、事務管理、不当利得、不法行為などの法定債権と同じ性質を有するものと解するのが相当である。そのため、法例第10条ではなく、第11条に基づき、準拠法が決定されるべきである。第11条第1項は、原因事実発生地を連結点にしているが、原因事実発生地としての「本件填補賠償請求権の発生した地」(YXに宝石を返還することを不能ならしめた地)がどこであるかについて、Xは主張・立証していない。すなわち、その地が日本であることを証明する事実は存在しないため、準拠法は日本法であるとするXの主張は失当である。


 ところで、「或る法律関係につき適用すべき準拠法が如何なる国の法律であるかは、単に民事紛争解決の尺度の問題であるに止まらず、当事者間の紛争の内容そのものであるから、準拠法として特定の国の法規の適用を主張し、その法規の適用により自己に有利な法律効果の発生(請求権の存在)を主張する当事者において、特定の国の法律の適用があることを訴訟上主張、立証する必要があるものと言わなければならない」。第2
次請求は、この証明がなされていない以上、失当である。


問題

準拠法の決定に関する上記判旨の立場は現在でも支持されているか。



 準拠法の決定が困難な場合、その他の事由により訴えを却下ないし棄却しうるときは、準拠法を決定しないまま、訴えを却下ないし棄却してもよいと解される。例えば、中華民国法または中華人民共和国法のいずれが本国法かを特定することが容易ではない事例において、最高裁は、当事者が訴訟行為能力に欠けることには変わりがないとし、準拠法を指定しなかったことがある(最判昭和34年12月22日、家月12巻2号105頁)。

 また、準拠法の決定が困難な ケースにおいて、いずれの国の法令を適用しても結果が異ならないのであれば、あえて準拠法を決定しなくとよいと解される(大阪高判昭和40年11月30日、家月18巻7号45頁)。





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