最高裁判昭和39年3月25日民集18巻3号486頁
元日本人のXは、昭和15年、中華民国上海市において、朝鮮人のYと結婚し、朝鮮国籍を取得した。Xは昭和20年の終戦とともに、朝鮮に赴き、Yの家族と同居していたが、生活習慣の違い等に基づき、結婚生活に耐えられなくなったため、Yと事実上の離婚をし、昭和21年に日本に引き揚げてきた。その後、15年間、Yの音信は不通であり、また、行方も分からなかった。朝鮮半島の分裂により、両人は、韓国人となったが、韓国親族相続法第840条(離婚原因)によれば、配偶者の生死が3年以上明らかでないとき、および婚姻を継続し難い重大な事由があるときは、離婚が認められるため、Xは自らの住所地を管轄する高松地裁に離婚の訴えを提起した。同裁判所は、以下のように述べて、訴えを却下した。
「外国人間の離婚訴訟については、原告が我が国に住所を有する場合でも、少なくとも被告が我が国に最後の住所を有したことをもって我が国の裁判所に裁判権を認める要件となすべきであって、我が国に渡来したことのない被告に対してまで我が国の裁判所に裁判権を認めることは被告に対して事実上応訴の道を封ずる結果となり不当である」。
控訴審も同様に判断したため、Xが上告したところ、最高裁はこれを容れ、原審を破棄した。最高裁の判断は次の通りである。
「離婚の国際的裁判管轄権の有無を決定するにあたっても、被告の住所がわが国にあることを原則とすべきことは、訴訟手続上の正義の要求にも合致し、また、いわゆる跛行[はこう]婚の発生を避けることにもなり、相当に理由のあることである。しかし、他面、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合においても、いたずらにこの原則に膠着し、被告の住所がわが国になければ、原告の住所がわが国に存していても、なお、わが国に離婚の国際的裁判管轄権が認められないとすることは、わが国に住所を有する外国人で、わが国の法律によっても離婚の請求権を有すべき者の身分関係に十分な保護を与えないこととなり(法例第16条但書参照)、国際私法生活における正義公平の理念にもとる結果を招来することになる。」
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