不 法 行 為 に 基 づ く 訴 え の 国 際 際 管 轄

 X(日本在住の日本人)は、米国を旅行中、Y(米国在住の日本人)の運転する車にはねられ、負傷した。帰国後、XYに損害賠償の請求をしたが、Yがこれに応じないため、裁判所に訴えを提起することにした。Xはどこの国の裁判所に訴えを提起すればよいか。

 

@ 国際裁判管轄の一般原則

 我が国には、国際裁判管轄について、直接規定した法令はなく、また確立した国際法上の原則も存在しないため、条理に従って判断するのが妥当であるが、我が国の民事訴訟法内の裁判管轄に関する規定は、予め条理を考慮して定められているので、この規定に従い日本の裁判所に裁判管轄が認められる場合には、日本の裁判所に訴えを提起してもよい。もっとも、これが裁判の適正、当事者間の公平または訴訟の迅速性、訴訟経済や判決の実効性などに反するといった特段の事情が存する場合には、この限りではない(最高裁判例同旨)。

 

A 不法行為の裁判管轄

 本件の損害賠償の請求は、Yの不法行為に基づいている。民訴法第5条第9号によれば、不法行為に関する訴えは、その行為があった地に裁判籍が認められる。この「不法行為地」とは、加害行為地(本件でいえば、事故が発生した地)を指すことは明らかである。この解釈に従うならば、事故は米国内で発生しているため、Xは日本国内の裁判所には訴えを提起しえない(米国内での訴えが適法かどうかは、米国の民事訴訟法に基づき判断しなければならない)。

 

 民訴法第5条第9号の「不法行為地」に結果発生地(または損害発生地)が含まれるかどうかという問題も生じるが、我が国の裁判所は、通常、これを肯定している[1]。従って、本件において、Xは結果発生地ないし損害発生地である日本国内の裁判所に訴えを提起しうることになるが、もっとも、この場合には、「損害」の範囲はどこまで及ぶかについて検討しなければならない。交通事故から直接に発生した損害がこれにふくまれることは明らかであるが、間接的な損害までこれに含めるとすれば、損害発生地の範囲が広範になり、加害者(被告)は、どこで訴えられるか予測不可能になるおそれがある。また、裁判籍を広範囲で認めると、加害者にとって著しく不利な状況が生じることがある。このような場合には、当事者間の公平に反するとして、損害発生地の裁判管轄を否定すべきである[2]

 

B 義務履行地の裁判籍

 我が国の民訴法第5条第1号は、財産権上の訴えは、義務履行地の裁判所に提起しうる旨を定める。本件訴えにおいて、Xは金銭による賠償をYに求めるとする場合、これは財産権上の訴えにあたるため、Xは義務履行地の裁判所に訴えを提起しうる。本件の義務履行地、すなわち、Yが損害賠償額を支払わなければならない土地について、両当事者間に合意がなければ、民法第484条の規定により、原告の住所地がこれに相当する。もっとも、これを国際訴訟についても認めるべきかどうかは検討を要する。なぜなら、被告(加害者)は、原告(被害者)がどこに居住しているかが分からない場合が通常であり、この裁判籍を認めるとすると、被告(加害者)の予測可能性を害し、当事者間の公平に反することが多いと考えられるためである[3]

 



[1]    東京地判昭和49724日判75458頁参照。

[2]    東京地判昭和59215日判タ525132頁参照。

[3]    東京地判昭和59215日判タ525132頁参照。



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