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tree 国際民事訴訟法講義ノート

国 際 裁 判 管 轄



1.総論

1.1. 裁判管轄


 国際裁判管轄について説明する前に、まず、裁判管轄一般について説明する。

裁判管轄とは、どの裁判所が裁判権を行使しうるかについて定めた取り決めのことである[1]裁判管轄について定める規定として、裁判所法第33条第1項・第24条第1号および民事訴訟法第4条以下が挙げられる。

・裁判所法第33条第1項は簡易裁判所の管轄権について、また、第24条第1項は、地方裁判所の管轄権について定めている。


 訴額(訴訟の目的の価額)が140万円以下の訴えは簡易裁判所の管轄に属し、140万円を超える訴えは地方裁判所の管轄に属する(裁判所法第33条第1および第24条第1項参照)。このように、 事件の内容(訴額)によって定まる管轄を事物管轄とよぶ。

 これに対し、後述するように、
同種の裁判権を行使しうる裁判所間の地理的な職務分担に関する定めを 土地管轄 と呼ぶ。例えば、訴額が140万円を超える訴えを管轄する地方裁判所は全国各地に設置されているが、 土地管轄に従い、どの地域の裁判所に提起するかが決定される。



・これに対し、民事訴訟法第4条以下は、簡易裁判所であると、地方裁判所とであるとを問わず、以下のように規定している(第4条以下は、両裁判所に適用される)。

 

 (1) 普通裁判籍による管轄(第4条)

参照

裁判籍とは、裁判管轄決定の基準となる地点(後述するように、被告の住所など)を指す。


被告が

@ 自然人の場合は、その住所・居所

日本国内に住所がないとき、または、住所が知れないときは居所を管轄する裁判所

日本国内に居所がないとき、または、居所が知れないときは最後の住所を管轄する裁判所(第
2項)



  参照 
被告の住所または居所を裁判籍にする理由


 

A 法人その他の団体社団・財団の場合は、主たる事務所または営業所を管轄する裁判所

それらが存しないときは、主たる業務担当者の住所を管轄する裁判所(第
4項)


 

B 外国の社団または財団の場合は、日本における主たる事務所または営業所を管轄する裁判所

それらが存しないときは、日本における代表者またはその他の主たる業務担当者の住所を管轄する裁判所(第5項)

 

(2) 特別裁判籍による管轄(第5条以下)

 前掲の普通裁判籍による裁判管轄の他に、以下の特別裁判籍(または 独立裁判籍 と呼ぶ)による管轄も認められる。原告は、複数の管轄裁判所の中から、自らに有利ないし便宜な裁判所に訴えを提起することができるが、もっとも、同一の事件について、複数の訴えを提起することは禁止される(重複起訴の禁止、民訴法第142条参照)。


訴 え

 管 轄 裁 判 所

 財産権上の訴え

義務履行地を管轄する裁判所(第5条第1号)

参照

義務履行地の裁判籍は、当事者の便宜のために認められているが、義務履行地について当事者間で合意されていないときは、持参債務となる(民法第484条、商法第516条参照)。したがって、債権者は自らの住所地において訴えを提起しえ、被告(債務者)の住所地を普通裁判籍とする趣旨が生かされないといった批判がある (詳しくは こちら)。



日本国内に住所がない者または住所が知れない者に対する財産権上の訴え

被告の財産の所在地を管轄する裁判所(第5条第4号)

参照

これは判決(給付判決)の執行可能性を考慮したものである参照


事務所または営業所における業務に関する訴え

当該事務所または営業所の所在地を管轄する裁判所(第5条第5号)


参照

最高裁「マレーシア航空事件」判決
こちらも参照



不法行為に関する訴え


不法行為があった地を管轄する裁判所(第5条第9号)

不動産に関する訴え

不動産の所在地を管轄する裁判所(第5条第12号)



 その他に、一つの訴えで複数の請求の審理を求める場合には、どれか一つの訴えについて裁判所が管轄権を有すれば、他の管轄権のない訴えについても管轄権が認められる(併合請求の裁判籍、民訴法第7条)。これも特別裁判籍の中に含まれるが、第5条の裁判籍(これを独立裁判籍とよぶ)と区別し、関連裁判籍と呼ぶ。


(3) 被告の同意がある場合        原告が選択した裁判所(第12条)







 これらの規定は、国内事件だけではなく、渉外事件にも適用されるとする見解もあるが[2]、最高裁判所は、リーディング・ケースである「マレーシア航空判決」[3]において、我が国には「国際裁判管轄を直接規定する法規もなく」と述べている。以後、判例および通説は、この判旨にしたがい、民事訴訟法内の規定は国内事件に適用されることを想定して定められており、国際裁判管轄について直接的に定めるものではないと解している。






 前掲の民訴法第4条第2項(日本国内に住所がない場合等について)、同第5項(外国の社団または財団の普通裁判籍)、第5条第4号(財産権上の訴え)のように、国際事件を想定していると解される規定もあるが(なお、第4条第3項[大使等]も同様である)、それらは、あくまでも、我が国が国際裁判管轄権を有する場合に、どの国内裁判所が管轄裁判所となるかについて定める規定(国内土地管轄に関する規定)と解すべきである(通説・判例)。


国際裁判管轄


 

国際裁判管轄は、条約によって定められることもある。我が国もそのような条約を締結しているが[4]、条約の適用範囲(事物的適用範囲)は限定されている。そのため、条約規定が適用されない場合には、どのようにして国際裁判管轄を決定するかどうかが問題になる。



   1.2.  国際裁判管轄

 

(1) 国際裁判管轄を決定する必要性

 前述した国内事件の場合は、国内のどの裁判所が管轄裁判所となるかどうかを決定すればよいが、国際事件(渉外事件)の場合には、どの国の裁判所が裁判をなす権限を有するかどうかについて検討する必要がある[5]

 裁判権は国家主権の一作用である。そのため、我が国と関連性がない事件や、他国の主権行為に関わる事項について、我が国の裁判所が裁判を行うとすれば、他国の主権を侵害ないし制約することにもなりかねず、国際法に反する事態も生じうる。また、我が国に関連しない事件について、国内裁判所が判示することは、訴訟当事者の利益、訴訟経済、また、裁判の適正といった点から問題が生じる。

さらに、訴訟当事者にとって、国際裁判管轄の決定は、国内裁判管轄の決定より重要な問題 となる。これは、以下の理由に基づいている。



@

外国で訴訟を追行すると、通訳や書類の翻訳などの必要性が生じるため

A

外国の裁判所に出廷するための時間や費用など、大きな負担が生じるため

B

手続法は法廷地法によるという原則が適用されるため(訴訟当事者は、法廷地国の手続法を周知しなければならない)

C

事件に適用される実体法は異なることがあるため(実体問題は法廷地法に基づき解決されるとは限らない)


問題

Aは、自分の国の法律では離婚が認められていないため、離婚を認める隣国に提訴しようと考えている。Aが実際に訴えを提起する場合、 その国の法律(法廷地法)に基づき、離婚を認める判決が下されると考えてよいか。



D

国際民事訴訟制度においては、一般に「移送」の制度(民訴法第16条以下)が存在しないことから[6]、管轄裁判所に新たに訴訟を提起する必要が生じるため




(2) 国際裁判管轄ルールに関する諸見解

 法(国際裁判管轄に関する規定)の欠缺より生じる問題は、条理に照らして判断すればよいと一般に解されているが、条理の具体的内容はどのようにして決定するかという問題が生じる。その方法については、様々な学説が主張されているが、主な見解は以下の通りである。


(a) 逆推知説

 これは、民事訴訟法の土地管轄に関する規定を適用し、日本国内に裁判籍がある事件は、原則として、日本の裁判所が裁判を行うとする見解である[7]。この学説は、民事訴訟法の規定に基づき、条理の内容を確定するとするものではないが、結果としては、民訴訟法の規定に従い、判断することになる[8]


(b) 管轄配分説

 これは、@当事者間の公平、A裁判の適正、B手続の迅速性などを考慮し、国際裁判管轄について決定するという考えである。すなわち、国際裁判管轄は、条理によって総合的に判断すべきとする見解である[9]


 この説による場合、「条理」の内容をどのように特定するかという問題が生じる。その際、法的安定性や訴訟当事者の予見可能性を考慮する必要がある。また、 この立場によると、裁判所の恣意を招くのではないかとの指摘もある。さらに、そもそも日本の民事訴訟法の適用は、条理に反する結果をもたらすかという問題についても検討する必要がある(この点について、後述最高裁「マレーシア航空事件判決」参照)。


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練習問題

   

(c) その他の学説                  

 その他に「利益衡量説」や「新類型説」が提唱されている[10]



(3) 判例 

国際裁判管轄に関するリーディング・ケースとなった「マレーシア航空事件判決」[11]において、最高裁は、まず、当事者間の公平や裁判の適正・迅速性に鑑み、条理の内容を決定すべきと述べておきながら、民訴法の規定に基づき国際裁判管轄について判示した。すなわち、管轄配分説を出発点としつつ、逆推知説に従い、国際裁判管轄を決定した。



最高裁の理論




その後、下級審は、同判旨に従いつつ、特段の事情の存する場合には、例外を認めてきたが[12]、このような取扱いは、平成9年の最高裁判決[13]によって承認されている(修正類推説、詳しくは こちら)。    


 

 以下では、最高裁のマレーシア航空事件判決について説明する。



事件の概要

 この事件の概要は以下の通りである。ハイジャックが原因と考えられる事故 でマレーシア航空機が(マレーシア領域内で)墜落し、乗員乗客の全員が死亡した。事故後、死亡した日本人乗客Aの妻子Xら(愛知県在住)は、マレーシア航空(Y)に対し、旅客運送契約の債務不履行を理由として、損害賠償請求訴訟を名古屋地裁に提起した[14]Yは、マレーシアの国内法に基づき設立され、同国内に本店をおく外国企業であるが、 東京都内に営業所を持ち、また、代表者(B)をおいている。もっとも、Aは、マレーシア の首都クアラルンプールにおいて航空券を購入しており、東京の営業所は航空券の購入に関係していない。

 名古屋地裁は、我が国 には本件訴訟の管轄権はないとして、Xの訴えを却下したが、控訴審は、我が国の裁判管轄を肯定し、事件を第一審に差し戻した。これを受け、Yが上告した。


最高裁判決

 最高裁は、まず、「国際裁判管轄を直接規定する法規もなく、また、よるべき条約も一般に承認された明確な国際法上の原則もいまだ確立していない現状のもとにおいては、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理にしたがって決定するのが相当であり」と判断した(以下、判旨@とする)。そして「条理」の特定方法につき、「わが民訴法の国内の土地管轄に関する規定、たとえば、被告の居所民訴法2新法42項に対応])、法人その他の団体の事務所又は営業所(同444項および5)、義務履行地(同551)、被告の財産所在地(同854)、不法行為地(同1559)、その他民訴法の規定する裁判籍のいずれかがわが国内にあるときは、これらに関する訴訟事件につき、被告をわが国の裁判権に服させるのが右条理に適うものというべきである」と判示し(以下、判旨Aとする)、「Yは、マレーシア連邦会社法に準拠して設立され、同連邦内に本店を有する会社であるが、Bを日本における代表者と定め、東京都 ・・・・に営業所を有するというのであるから、たとえYが外国に本店を有する外国法人であっても、Yをわが国の裁判権に服させるのが相当である」(以下判旨Bとする)と判断した。


  
リストマーク 新旧民事訴訟法の規定はこちら


                                     

評釈            

() 理論構成について

 最高裁は、判旨@では、管轄配分説と同趣旨の立場に立ちながら、判旨Aでは逆推知説と実質的に同じ結論を導いていることから(参照)、理論の展開に対して批判的な評釈が多い[15]しかし、判旨は以下のように説明することができる。すなわち、国際裁判管轄は条理に照らして決定すべきであるが、その判断に際しては、民訴法内の裁判管轄に関する規定 を参照しうる。なぜなら、民訴法内の規定も、裁判管轄配分の基準として一応の合理性を有しているため、これを国際事件に適用してもよいと考えられるからである。


  なお、事後のケース[13]において、最高裁は、当事者間の公平や裁判の適正・迅速性を害するといった「特段の事情」が存在する場合には、 我が国の国際裁判管轄を否定すべきであることを認めている(このような考え方は修正類推説と呼ばれる)。このような理論に従うならば、@国際管轄の決定に関し、法的安定性が維持され(なぜなら、成文の規定が原則的に適用されるため)、また、A例外的な処理も可能であるため、判断の具体的妥当性を確保することができる。もっとも、近時は、この例外的処理が頻繁になされるようになり、法的安定性を害する事態が生じている。


() 旧民訴法第4条の適用について

 事件当時に適用されていた 旧民訴法第4第3 によれば、外国の社団または財団の普通裁判籍は、日本における事務所、営業所または業務担当者の住所に基づき決定される。最高裁は、Yが日本国内に営業所を設けていることに鑑み、我が国の国際裁判管轄を肯定しているが、かねてより、このような立場は批判されてきた。なぜなら、単に被告(外国法人であるY)の営業所が日本国内にあるという事実だけでは、事件と法廷地たる我が国との密接な関連性を裏付けるのに十分ではないこと(別の観点から言うと、このような場合には、我が国には、裁判を行う利益がない)、また、被告の防御という観点から問題があるからである。我が国の裁判管轄を認めるためには、少なくとも、国内の営業所が事件に関わっている必要性があるとする見解が有力であった[16]。このような見解がすでに主張されていたにもかかわらず、最高裁が旧民訴法4条(3項)を援用した点(判旨B)は、厳しく批判されている。

      
   リストマーク 参照


() 判決の結論について

 上掲の判決の結論に対しても、様々な批判が寄せられているが、最高裁はXらの権利保護の必要性を重視し、我が国の管轄権を認めたと考えられる。つまり、事故によって生活の支えを失ったXらにとって、外国での訴訟遂行は大きな負担となる。また、我が国の通貨価値の上昇や事故が発生した国の法制度などを考慮すると、事故地における裁判では、Xらに相当な賠償の支払いを命じる判決が下されるかどうか定かではない。このような点を考慮すると、国内の裁判所の管轄権を認めることにも一理あると言える。


                           


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練習問題



 


 

(4) 条理の内容の確定

 我が国には、国際裁判管轄について直接的に定める法規はないため、国際裁判管轄は、条理に基づき判断しなければならないが、前掲のマレーシア航空事件判決によれば、以下の点を考慮し、条理の内容を確定する必要がある。

  

@ 訴訟当事者間の公平

訴訟当事者間の公平に関しては、まず、被告の保護(被告の防御権の保護)について考慮しなければならない。他方、原告の裁判を受ける権利についても十分考慮しなければならない。


  例: 離婚請求の国際裁判管轄



A 裁判の適正

裁判の適正は、事実認定の適正、法解釈の適正および当事者の訴訟活動の充実といった観点から検討される。



事実認定の適正

 事実関係について、当事者間に争いがある場合も少なくない、正しい判断は、正確な事実認定を必要とする。裁判所が証拠調べをしなければならないとすれば、証拠(証拠方法)が集中している場所で裁判を行うことがよいと解される(後述「B 裁判の迅速性、訴訟経済および判決の実効性」を参照されたい)。

  例: 不法行為に基づく訴えの国際裁判管轄


 なお、一国の裁判権は、その領土内でのみ行使されうる。そのため、裁判官が他国に赴き、直接、証拠調べをすること認めらない。これを補うため、国際司法共助の制度が設けられている。

 台湾の航空会社Aが運航する飛行機が台湾で墜落し、死亡した日本人乗客の遺族らが、飛行機を製造した米国法人らに損害賠償の支払いを求め、東京地裁に提訴したケースにおいて、同裁判所は、Aの保守整備が適切であったかどうか、また、墜落した機体の残骸などの調査を台湾で行う必要があるが、台湾との間には正常な国交がなく、証拠ないし証拠方法を我が国の裁判所が司法共助によって利用することができないのは明らかであり、適切な裁判を行うことは著しく困難であるとし、我が国の国際裁判管轄を否認した(東京地裁昭和61年6月20日判決、判時1196号87頁=判タ604号138頁) 。


法解釈の適正

 渉外事件は、国内法(法廷地法)に基づき解決されるとは限らず、外国の法律を適用する場合もある(準拠法の選択に関する問題)。しかし、外国法の解釈・適用は決して容易ではない。そのため、例えば、A国法が適用される場合には、A国で裁判をすべきとする見解も成り立ちうる。

 例: 身分関係事件の国際裁判管轄

当事者の訴訟活動の充実

 民事事件(特に、財産事件)において、裁判官は、通常、当事者の主張・立証に基づき、裁判を行う。そのため、その判断の適正を保障するには、当事者による訴訟活動を保障しなければならないが、これは、前述した当事者間の公平に関連してくる。



B 裁判の迅速性、訴訟経済および判決の実効性

例えば、事案の解明に必要な証拠(証拠方法)がA国にある場合には、裁判の迅速性(また、裁判の適正)の観点から、A国で裁判を行うものとし、我が国の国際裁判管轄は否定されるべきである。また、日本とA国との間に外交関係がなく、円滑な国際司法共助が行われない場合も同様である。

 

また、給付判決(例えば、被告に1000万円の支払いを命じる判決)の場合には、判決の実効性について考慮されなければならないとされる。つまり、A国の裁判所がこの判決を下したとしても、被告が任意に判決に従わず、強制執行の対象となる財産がB国内にあるときは、B国内で裁判を行った方がよいと解される。なぜなら、A国の判決は、B国内でも当然に効力を持つとは限らないためである(外国判決の承認・執行の問題)。


外国判決の執行


 

C その他の要素

その他にも、特に身分関係事件では当事者の国籍を考慮する必要があるとされる参照

また、ある特定の国で訴えられることに対し、被告が予見可能であったかどうか(被告の予見可能性)を検討すべきである。例えば、交通事故に基づく損害賠償請求の訴えは、事故地の裁判所に管轄権が与えられるとすれば、被告(加害者)の期待に反しない(民訴法第5条第9号参照)。これに対し、製造物責任を問う訴えは、侵害発生地(例えば、タイヤが故障し、事故が発生した土地)の裁判所の管轄権を認めるとすれば、被告(タイヤの製造者)が全く予測しえなかった国の裁判所に訴えが係属することになり、被告に不利になる。

 


[1]    石川明=小島武司編「新民事訴訟法」青林書院(1997年)35頁以下参照。

[2]    藤田泰弘「日本裁判官の国際協調性過剰(5)」判タ24945頁。なお、石黒一憲「現代国際私法(上)」262頁以下も参照されたい。

[3]    最判昭和561016日、民集3571224頁。

[4]    その例として、以下の条約が挙げられる。

 ・1929年の「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約」(「ワルソー条約」)

 ・1957年の「海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約」

 ・1969年の「油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約」

 ・1971年の「油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約」

  これらの条約について、奥田安弘「油による海洋汚染についての管轄権」高桑昭和他(編)『国際民事訴訟法』(青林書院、2002年)118頁以下、同「責任制限手続の管轄権」高桑他(編)・前掲書123頁以下を参照されたい。

[5]    この場合には、例えば、日本が裁判管轄権を有するか、またはアメリカ合衆国が裁判管轄権を有するかということが問題になり、日本のどの裁判所(例えば、東京地裁)、または、アメリカのどの裁判所(例えば、連邦地裁)が管轄権を有するかどうかは、問題にならない。

  なお、ある国際条約(例えば、投資紛争解決条約)に基づき新たな紛争処理機関が設けられ、同機関に管轄権が与えられることがあるが、この管轄権が専属的かどうか、または国内裁判所の管轄権の方が優先するかどうかについて検討する必要があるが、この問題について、ここでは深く検討しないことにする。

[6]   訴えが管轄違いの裁判所に提起された場合、裁判所は訴えを却下せず、職権で管轄裁判所に移送する。これによって、原告は再訴の手数や費用を免れ、また、起訴による時効の中断や期間遵守の利益を失わずにすむ(民法第149条参照)(詳しくはこちら

[7]    兼子一「新修民事訴訟法体系」66頁、江川英文『国際私法における裁判管轄権(3・完)』法協603374頁など。

[8]    石川明=小島武編「国際民事訴訟法」35頁(小島・猪俣)。

[9]    山田=澤木編「国際私法講義」231頁(三浦)、国際私法の争点149頁(渡辺)等参照。

[10]  上掲の学説につき、石川明=小島武編「国際民事訴訟法」36頁以下(小島・猪俣)を参照されたい。

[11]   最判昭和561016日、民集3571224頁(マレーシア航空事件判決)=民訴判例百選I(新法対応補正版)40頁以下(渡辺)=渉外判例百選(第3版)196頁(高桑)。

[12]   例えば、東京地判中間判決昭和61620日(台湾遠東航空事件)判時119687頁=判タ60165頁参照。このケースについて、こちら を参照。

[13]   最判平成91111日、民集51104055頁=ジュリスト1133182頁。本件では、X(自動車等を輸入している日本法人)がYXより委託され、欧州各地で自動車を買い付ける者で、ドイツ・フランクフルトに本拠を置く日本人)から金銭(預託金)の返還を求めた訴えの裁判管轄が争われた。民訴法第5条第1号(義務履行地)に照らし、日本の国際裁判管轄を認めることも可能だが(民法第484条参照)、最高裁は、@XY間の契約はドイツで締結され、Yがドイツで業務を行うことを目的としていること、A義務履行地を日本とし、また、日本法を準拠法とする旨の明確な合意は形成されていないこと、B20年以上にわたり、Yはドイツに生活の本拠を置いていること、CYの防御に必要な証拠方法も同国内に集中しているといった特段の事情に鑑み、日本の国際裁判管轄を否定した。

[14]   詳しくは、マレーシア航空(Y)の債務不履行により発生したAの損害賠償請求権をXらは相続したとして、Yに対して1,300万円余の支払いを求める本件訴えを提起した。

[15]   例えば、民訴判例百選I(新法対応補正版)40頁以下(渡辺)参照。

[16]   民訴判例百選I(新法対応補正版)41頁(渡辺)参照。




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