5.3. 否認、不知
ある当事者が主張した事実について、相手方が否定することを 否認 と呼ぶ。例えば、貸金返還請求訴訟において、「2005年1月10日、被告に100万円を貸した」とする原告の主張について、被告が@「借りていない」または、貸し借りがあったことを否定する趣旨で「借りた覚えはない」と陳述したり、A「2005年1月10日は、1日中、寝ていたため借りていない」と述べることであるが、@を単純否認、また、Aを 理由付否認(ないし間接否認)と呼ぶ(民訴規則第79条第3項は理由を付けることを要求している)。また、「確かにお金を受け取ったが、それは贈与されたものだ」と陳述することも、理由を付けて相手方の主張を否認しているため、理由付否認(ないし間接否認)にあたる。なお、この場合であれ、金銭の貸し借りがあったことを認めているわけではないため、後述する自白にはあたらない。
これに対し、「借りたかどうか分からない」 または「知らない」等と述べ、相手方の主張が真実かいなか知らないと陳述することを 不知 というが、これは否認と推定される(第159条第2項)。
否認や不知の陳述を行う者(上のケースでは被告)は、その事実について証明する必要はなく、相手方(原告)が事実の存在について証明しなければならない。つまり、上掲の貸金返還請求訴訟において、「借りていない」または「2005年1月10日は1日中、寝ていた」と陳述する被告は、そのことについて証明する必要はなく、原告が、金銭を貸したという事実について証明しなければならない。
5.4. 自白
前掲のケースで、被告が「原告の主張どおり、金銭を受け取った」と述べることを 自白 と呼ぶ。自白された事項について、原告は証明する必要がない。これは当事者間に争いがないためであるが、それゆえ、裁判所は自白された事項をそのまま裁判の基礎にしなければならない(弁論主義の第2テーゼ)。ただし、職権探知主義 が適用されるケースでは、この限りではない。つまり、人事事件や公益性の強いケースでは真実を発見する必要性が強いため、裁判所は職権で証拠を収集し、当事者の自白が真実に反すると解される場合にはそれを判決の基礎から除外することができる。
擬制自白(第159条第3項)
当事者は、後日、自白を撤回したり、自白の内容に矛盾することを主張してはならない(自白の不可撤回効)。これは、例えば、前掲の貸金返還請求訴訟のケースにおいて、被告が金銭の借受けを一旦は認め、訴訟の争点から外しておきながら、訴訟の終盤でこれを撤回すると、原告が十分に訴訟活動を行えないことがあり、同人に不利益をもたらすことがあるためである。また、自白の撤回は裁判所の審理を混乱させ、訴訟遅延を引き起こす危険性があるためでもある( 訴訟上の信義則、禁反元の原則)。ただし、以下の場合には撤回が許される。
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