1. 定義
誰であれ、また、どのような訴えであれ提起しうるとすれば、膨大な数の訴えが裁判所に係属し、司法制度が麻痺するおそれがある。このようなことを防止するため、本案判決を受ける正当な利益ないし必要性の有無が審査される。この利益ないし必要性を
訴えの利益 と呼ぶ。
給付の訴え は、特定の義務の履行を求め提起される(例えば、代金の支払いや、賃貸物の返還を求める訴えなど)。また、形成の訴え は、実体法上の権利・義務ないし法律効果の発生・変更・消滅を目的として提起され、この訴えが認められる場合は、予め法律で定められている(参照)。これに対し、確認の訴え の対象は明確に限定されない。つまり、あらゆる権利・義務、法律関係ないし事実の確認を求め提訴することが形式的には可能である(また、例えば、ある土地をめぐり争っている相手方に対してだけではなく、全く関係のない者に対しても、所有権確認の訴えを提起することが形式的には可能である)。そのため、訴訟件数が増加し、裁判所の負担を大きくしかねないが、これを防ぐために考案されたのが 訴えの利益 である。なお、訴訟制度の機能維持という要請はひろく存在するので、給付の訴え と 形成の訴え についても、訴えの利益、つまり、本案判決を受ける正当な利益ないし必要性が審査される。
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当事者適格 に同じく、訴えの利益は 訴訟要件 の一つであり、それが存在しなければ、本案判決は下されない。当事者適格では、特定の当事者間の法的紛争の解決に(または当事者の権利の実現に)本案判決が必要か否かが問われるのに対し、訴えの利益では、誰が当事者であるかではなく、具体的な紛争の解決に本案判決が必要かどうかが問われる。
当事者適格 → 主観的訴訟要件
訴えの利益 → 客観的訴訟要件
例えば、AからBに土地が売却された後、さらに、Cに転売されたケースにおいて、Bではなく、AがCに代金の支払いを求め提訴しうるかは、当事者適格 の問題である。これに対し、代金の支払期限はまだ到来していないが、直ちに訴えを提起することができるかは、訴えの利益の問題である。
訴えの利益は、給付、確認および形成の3類型の訴えに共通する事項と、各訴えに特有の事項がある。
2. 各訴えに共通する訴えの利益
給付、確認および形成の3類型の訴えに共通する訴えの利益は次の通りである。
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