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ユスティティア EUの教育・青少年政策




(4) 法定管轄、合意管轄、専属管轄、任意管轄

 民事訴訟法第4条や第5条など、法律で定められた管轄を 法定管轄 と呼ぶ。なお、裁判の適正や迅速性など強度の公益性 を理由に、特定の裁判所にのみ管轄が与えられている場合がある(民事訴訟法第340条、第383条、人事訴訟法第4条)。このような管轄を 専属管轄 と言う。


   リストマーク 専属管轄の例

ある裁判所の判決に対し提起する 再審の訴え は、その裁判所(民事訴訟法第340条)

支払督促の申立ては、債務者の 普通裁判籍 所在地を管轄する簡易裁判所(第383条)

人事に関する訴えは、当事者の 普通裁判籍 所在地を管轄する家庭裁判所、または、当事者が死亡時に有していた 普通裁判籍 所在地を管轄する家庭裁判所(人事訴訟法第4条第1項)


 当事者は、専属管轄の定めに反し、訴えを提起したり、応訴 することはできず、その違反は、控訴・上告理由となる(第299条但書、第312条第2項第3号)。これに対し、当事者が裁判所を選択しうる管轄を 任意管轄 と言う。


リストマーク 管轄の合意

 専属管轄が定められていないとき、当事者は特定の裁判所の管轄について合意しうる。このようにして生じた管轄を 合意管轄 と呼ぶが、私的自治(当事者自治)の原則にかない、また訴訟追行の便宜を図る上でも好ましいと考えられるため認められている(民訴法第11条)。携帯電話やインターネット接続など、一般の契約書には、管轄の合意に関する規定(合意管轄条項)が盛り込まれている。


   (例) Lolipop の利用規約第23条


 管轄の合意には、法定管轄の他に、特定の裁判所を追加する 付加的合意(競合的合意、併存的合意と、ある特定の裁判所の管轄のみを認める 専属的合意 がある(Lolipop の利用規約第23条)。なお、企業が作成した約款に盛り込まれた合意が付加的か、または専属的なものか判断しえない場合、一般契約者(消費者)の利益を優先させ、付加的合意とした裁判例がある(東京高裁決定昭和58年1月19日、判時1076号65頁)。

  リストマーク 消費者契約における管轄の合意

 

 専属的合意は、合意された特定の裁判所の管轄のみを認めるため、それに違反して訴えが提起された場合は、管轄違いによる移送(民訴法第16条参照)が必要になる。もっとも、裁判の遅延を避ける等の事情や、当事者間の合意により、他の裁判所の管轄を認めることもできる(第20条第1項括弧書)。

 管轄の合意の要件は、以下の通りである(第11条参照)。

・  

第1審裁判所の管轄に関する合意であること

2審、第3審裁判所の管轄権は、自動的に定まるので(例えば、第1審が横浜地裁であれば、第2審は東京高裁、第3審は最高裁となる)の対象にならない。

・  

一定の法律関係に基づく訴えに関する合意であること
あまりに包括的な合意(例えば、将来20年間にわたる訴訟は、東京地方裁判所に提起するという合意)は、被告の利益を損なうので許容されない。

・  

書面でなすこと(当事者の意思を明確にするため)

・  

専属管轄(例えば人事訴訟手続法第1条第1項および第27条参照)[1]に反しないこと

・  

訴えが提起される前までに合意が成立していること


 

合意の成立に関しては、民法の意思表示に関する規定が適用される。例えば、合意内容に錯誤があった場合には、民法第95条が適用され、合意は無効となる。


 管轄の合意が前掲の要件を満たしている場合には、合意した通りに裁判所の管轄権が発生し、また、消滅する。第3者に対し、合意は効力を持たないが、当事者の一般承継人(例えば相続人)は、合意に拘束される。

 管轄の合意によれば管轄権を持たない裁判所に訴えが提起されたときであれ、当事者がそれを争わずに訴訟が進行し、本案判決が下されたときは、控訴審で管轄の合意に違反していることを主張することは許されない。

 合意された裁判所が審理すれば、訴訟が著しく遅滞したり、当事者間の衡平に反するとき、裁判所は、他の管轄裁判所に移送することができる(第17条参照)。


  リストマーク 消費者契約における管轄の合意

問題
@   控訴は東京高等裁判所に提起するという合意は有効か。

A   AとBは結婚に先立ち、将来にわたる全ての紛争はXX裁判所の専属管轄に属する取り決めることは許されるか。

B   東京地方裁判所を管轄裁判所とする合意が形成されたが、その合意の成立が争われるときは、どの裁判所によって審査されるか。


(5) 応訴管轄

 本来、管轄権を有さない裁判所に訴えが提起された場合でも、被告がこれに応じれば、受訴裁判所の管轄が生じる(応訴管轄、第12条)。被告が応じるとは、同人が管轄違いの抗弁を提出せず、本案について弁論をするか、または、弁論準備手続において申述することを指す(第12条参照)。被告が本案について弁論ないし申述することが必要であるため、裁判官の除斥・忌避を申し立てたり、訴えの却下を申し立てるだけでは応訴管轄は生じない。

 応訴管轄は、受訴裁判所の管轄権を被告が承認することによって、事後的に管轄の合意が成立したとの考えに基づき認められている。

 なお、専属管轄に違反し訴えが提起された場合には、被告がこれに応じても、応訴管轄は生じない。ただし、専属的管轄の合意に反する場合には、被告が応じれば、応訴管轄が生じる。例えば、東京地方裁判所を専属の第1審裁判所にするという合意(専属的管轄の合意)に反し、大阪地方裁判所に訴えが提起されたが、被告がこれに応じるならば、大阪地方裁判所に管轄権が与えられる。


(6) 指定管轄

 管轄裁判所が、法律上または事実上、裁判を行うことができないときは、「直近上級の裁判所」が管轄裁判所を決定する(第10条第1項)。このように、裁判所によって決められる管轄を 指定管轄 と呼ぶ。「直近上級裁判所」とは、例えば、さいたま地方裁判所の場合は東京高等裁判所、東京高等裁判所の場合は最高裁判所である。

 複数裁判所間の管轄区域が明らかでないときも、「共通する直近上級裁判所」によって管轄が決定されるが(第10条第2項)、例えば、前橋地方裁判所と宇都宮地方裁判所の管轄区分が明らかではないときは、東京高等裁判所が両裁判所に「共通する直近上級裁判所」として判断を下す。他方、前橋地方裁判所と仙台地方裁判所の管轄区分が明らかでないとき、それぞれの「直近上級裁判所」は東京高等裁判所と仙台高等裁判所となり、共通ではないから、最高裁判所が「共通する直近上級裁判所」となる。




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