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ユスティティア 民事訴訟法講義ノート

 A. 訴訟の開始 〜 訴えの提起


1. 訴えの種類


 民事裁判手続は、原則として、当事者の申立てによって開始されるが、この申立てを訴えと呼ぶ。訴えは、以下のように分類しうる。



(1) 給付の訴え

 給付の訴えとは被告に特定の給付を求める訴えを指す。例えば以下の訴えがこれにあたる。


例:

売買代金の支払いを求める訴え
建物の撤去を求める訴え
騒音を出さないように求める訴え


 なお、「給付」とは、被告が、自らの義務の履行としてなす行為(または不作為)を指す。そのため、金銭や物を与えるだけではなく、ある行為をなすこと(またはしないこと)も含まれる。

 給付の訴えは最も古くから認められており、現在でも、裁判所に提起される訴えの大多数を占めている。

 原告の請求が認められると、裁判所は被告に対し特定の給付を命じる判決(給付判決)を下す。例えば、「被告は原告に対して金1億円を支払え」という判決が下される。被告が判決に従わない場合には、原告は裁判所に強制執行(給付判決に基づき、国家がその内容を強制的に実現する手続)を求めることができるが、これを給付判決の執行力と呼ぶ(参照)。

 これに対し、原告の請求が認められない場合、裁判所は請求を棄却する判決を言い渡すことになるが、これによって原告の請求は認められないこと、ないし、被告は給付義務を有さないことが確定される(これは、後述する「確認判決」である)。


     給付の訴えの利益については こちら



(2) 確認の訴え

 確認の訴えとは特定の権利・義務または法律関係の有無を争い、その確認を求める訴えを指す。

例:

@売買代金支払い義務の存在(積極的確認の訴え)
A親子関係の不存在(
消極的確認の訴え〔民法第775条参照〕)


  Aのように、不存在を確認する訴えを「消極的確認の訴え」と呼ぶ。これに対し、@は積極的確認の訴えと呼ばれる。


 給付の訴えとは違い、確認の訴えは、相手方に給付を求めるのではなく、その前提となる権利の有無を裁判所に確定してもらうために提起される。給付まで請求しないため、原告の権利が完全に実現されるわけではないが、これによって、将来の紛争を防止することができる(確認の訴えの紛争予防機能)。

 なお、(民事)裁判とは、法を適用し、具体的な法律上の争いについて裁定を下す制度であるため、単なる事実の確認を裁判所に求めることは許されない(例外として、第134条参照)。

     確認の訴えの利益については こちら

 裁判所が原告の訴えを認容する場合には、判決において、例えば、売買代金の支払義務を確認したり、親子関係が存在しないことが明記される。このような判決を確認判決と呼ぶが、前掲の給付の訴えや後述する形成の訴えが棄却される場合も、確認判決が下される。つまり、この判決によって、給付義務が存在しないことや、法律関係が変動しないことが確定される。



(3) 形成の訴え

 形成の訴えとは既存の法律関係の変動(発生・変更・消滅)をもたらす法律要件(形成要件)が満たされることを主張し、その変動を宣言する判決を求める訴えを指す。この要件は法律で定められている。

例:

民法第770条第1項が定める離婚原因を主張し、離婚判決を求める訴え(→ 人事訴訟)

会社法第831条第1項が列記する事由を挙げ、株主総会決議の取消しを求める訴え

株式会社の役員の解任を求める訴え(会社法第845条)


 なお、株主総会決議無効
確認の訴え(会社法第830条第2項)は、確認の訴えではなく、形成の訴えである(多数説)。

 原告の請求が認められると、裁判所は、例えば、「原告と被告とを離婚する」というように、権利・法律関係の変動を命じる判決(形成判決)を下す。これに対し、原告の請求が認められない場合には、請求原因が存在しないことを確定する判決(確認判決)が下される。


     形成の訴えの利益については こちら

 

※ 形式的形成の訴え

 前述したように、形成の訴えは形成要件の充足を主張し、提起する訴えであるが、同要件が法で定められていない場合がある。そのため、裁判所は条理に照らし判断するが、このような形成の訴えを形式的形成の訴えとよぶ。その例は以下の通りである。
 

   ・共有物分割の訴え(民法第258条)
   ・土地境界確定の訴え
   ・父を定める訴え